数年前、共和党の上院および下院議員の95%は、1985年以降に考案された無税公約に署名した。これは、納税者保護誓約と呼ばれるもので、利益団体または政治的に影響力のある圧力団体、Americans for Tax Reform(アメリカ人の税制改革)の創設者、グローバー・ノークエストが提唱したものである。その後、この無税公約を「ノークエスト誓約」と呼ばれるようになった。この組織は、反増税、出費削減、歳入増加拒否、政府縮小を目的としている。
オバマ大統領の再選後、この無税公約に署名した共和党の複数の主要リーダーはこの誓約を放棄する声明を発表し始めた。彼らは、古い習慣に固執するより、国の現状の方が大事である、「誓約より国の問題解決の方が大事である」、「ノークエストには恩義はない」と言い始めた。この変化の要因は、記録的な赤字を減少させるという点において、両党が共通の認識を持つに至ったことである。また、双方の主な同意点は、何らかの税制改革の必要性と出費の削減である。26日、「財務の崖」を防ぐための 論議が再度行われたが、交渉のテーブルに提示された内容は、まさに一般のアメリカ人を「人質」にとったものであり、選挙前の事態に逆戻りしている。
赤字を減少するための税制改革について、民主党は、国民98%を除く年収250,000ドル以上の世帯に対する増税を掲げ、実際の税率または実効税率のいずれかの方法で、富裕層の税率も含めて追加収益を上げる必要があると主張している。しかし、共和党は依然として富裕層2%の増税を拒否し、現状の税率(ブッシュの減税法)を維持しながら、より多くの税収を上げるため、税の抜け穴や控除を排除することで増税を避けることを主張している。共和党は、 メディケア、メディケイド、社会保障、雇用保険などのエンタイトルメントと呼ばれるプログラムの大幅な改革、更に、控除額の上限設定を提案している。メディケアには適応年齢の引き上げが含まれている。
控除額の上限設定に関しては、サウス・キャロライナ出身の共和党上院議員リンジー・グラハムが控除額に上限を設けることを提案している。グラハムは、「3万から4万ドルの範囲で控除額に上限を設けた場合、1兆ドルの歳入を得ることが可能であり、その控除を失う人たちは高所得者である」と述べている。またグラハムは、高齢者、身体障害者、貧困者向けの健康保険プログラムであるメディケア、メディケイド、その他のエンタイトルメント・プログラムを大幅に改革するなら、「ノークエスト誓約」を破棄するとABCニュースに語った。
これに対し、民主党の代表議員らは、メディケアやメディケイドの改革に関しては幾つかの変更が必要であると同意し、プログラムの整合性を損なうことなく、有意義な改革を行うことができる述べている。しかし、国民の退職金制度である社会保障は、国民が支払っている社会保障税の別途積立方式であるため、赤字を増やすプログラムではないと主張し、社会保障の改革を拒否した。また、共和党が提案しているメディアケア適応年齢の引き上げに関して、民主党は、健康保険を必要とする早期退職者に対する考慮が欠けている点や、高齢者が購入するにはあまりにも高すぎる保険料にギャップがあるとの理由で、適応年齢引き上げ案に反対した。
オバマ大統領の赤字削減計画は今後10年間で4兆ドルであり、控除額上限設定では十分な歳入を得ることは不可能であるため、長期的な財政赤字を減らすためには富裕層に対して所得税率を引き上げる必要があると、財務長官のテイモシー ガイトナーは繰り返し述べている。オバマ氏の税制計画は、年間所得250,000ドル以上の所帯には現行の33%から36%へ増税、株投資所得は15%から20%である。現行法が期限切れになった場合、自動的に33%から約39%に上がるが、下院議長のジョン・ベイナーや他多くの共和党議員は、大統領の富裕層に対する増税案に断固反対している。
要するに、富裕層に対する税金をどうするかという点に関して、合意に達していない。また、双方の歳入目標が一致していない印象もある。富裕層に増税する代わりに、一般国民の給与税で賄われている重要なエンタイトルメント・プログラムを大幅に改革又は削減することを提案した共和党に対する民主党の反発は強い。ブッシュ減税を期限切れのまま放置し、来年、新たな税法を制定する方法もあるが、大統領は、中流家庭に対しては現行の税法を維持し、富裕層に対しては期限切れにすることを明白にしている。また、バランスの取れない税制案には署名しないと公言している。
現在、「財政の崖」の交渉は引き続き難航状態であり、オバマ政権の一期目で繰りかえしてきた状況とほとんど同じである。違う点は、過去4年間民主党が結局妥協し、ブッシュ減税を延長してきた。しかし、再選後は有権者が大統領の税制を支持したことを示唆しているため、一歩も譲らない構えを示している。更に、民主党や大統領に重くのしかかっている事は、大半の共和党議員が無税公約の「ノークエスト誓約」に署名していることである。このような状況から、大統領は、メディア、公共でのディスカッションを通して、富裕層に対する税制を公的に浸透させるためのキャンペーンに突入するようだ。