
カリ・レイク Photo credit : The Washington Post
ボイス・オブ・アメリカ (VOA)は米国政府の資金援助を受けて1942年2月1日にナチスのプロパガンダと闘うために設立され、数十のジャーナリズム賞を受賞した国際放送局である。連邦政府が助成金を提供している大学機関および放送局は、今年1月に政権が変わって以来、その補助金停止の政策の標的になっている。そのような機関のほとんどが、交渉を行うか妥協するか又は抵抗し続けている中で、放送局の中で政権による資金停止と撤廃のターゲットになっているナショナル・パブリック・ラジオ(NPR)やPBSもVOAと同様の立場である。
歴史的にVOAが重要である理由は、冷戦中、共産主義と戦うために、ソ連や中国のターゲットにされた国を保護するための作戦を展開したことである。VOAがユニークである点は、報道の自由や独立したジャーナリズムがない国に住む多数の国の人々が主な視聴者であるということである。米国で現存する国際放送局の中では最古であり、世界中の系列局向けに約50の言語でデジタル、テレビ、ラジオのコンテンツを制作しており、世界全体で毎週約3億2,500万以上の視聴者が利用している世界で最大規模の放送局である。VOAの本部はワシントンD.Cにあり、議会の承認を得て資金提供を受けている米国政府の独立機関である米国グローバル・メディア庁(USAGM)の管轄下にある。
2025年1月20日に就任したドナルド・トランプ大統領はVOAを「完全な左翼の災難」と呼び、3月14日にUSAGMへの資金提供を削減する大統領令に署名した。その直後から、VOAの約1,300人のジャーナリスト、プロデューサー、補助職のほぼ全員が休職となった。翌日、VOAの多くの外国語放送はニュースやその他の番組が停止され、音楽のみが流れているという。アリゾナ州での知事選に失敗し、不正選挙の虚偽を含む陰謀論を推進することで知られる親トランプ派のカリ・レイクは、2024年の選挙後の移行期間中にトランプ大統領にボイス・オブ・アメリカの責任者として指名され、2025年初頭にVOAを監督する米国国際メディア局(USAGM)の特別顧問として、2025年3月4日に就任した。これによってVOAは解体の危機に直面し、政府閉鎖中の現在、VOAのすべての番組は放送停止になっている。
トランプ政権は、VOAやその他の連邦政府資金で運営される国際ニュース・メディアをめぐる裁判所での争いに直面している。ニューヨーク・タイムスが26日に伝えたところによると、「トランプ政権は、気に入らない連邦政府機関の一部を恒久的に縮小するという取り組みにほぼ成功したものの、VOAやその他の連邦政府資金で運営される国際ニュース・メディアをめぐる争いは、まだ終わっていない。 裁判所はトランプ政権に対し、VOAでのニュース放送を再開し、ラジオ・フリー・ヨーロッパ/ラジオ・リバティ、ラジオ・フリー・アジア、そして中東放送ネットワークに連邦政府資金停止を禁止する判定を下した。これらの報道機関は、政府資金に全面的に依存しており、ジャーナリズムを通して米国の海外利益を促進するというVOAの使命に共鳴している。また、トランプ政権に対する稀な超党派の抵抗を反映して、一部の共和党議員は、ニュース放送の停止は、その空白を埋めようと積極的に動き出しているロシアと中国のプロパガンダ・ネットワークに勢力を譲ることになる」と警告している。共和党下院議員ヤング・キム(カリフォルニア州)は9月の下院委員会で、「強力な代替手段がないまま」連邦政府資金による報道機関を廃止するのは「無謀で近視眼的です。これらの報道機関は、視聴者との信頼関係を築く、信頼できる現地語報道を提供しています」と語った。
カリ・レイクは6月25日、ワシントンD.Cで行われた下院外交委員会の公聴会で証言した。彼女はある時点で、「連邦政府の資金で運営されているVOAの報道において、中国共産党がアメリカの価値観よりも大きな影響力を持っていると、証拠もなく主張した」という。NPRの6月26日の報道によると、レイクは 「VOAの放送で蔓延しているロシア、中国、イランによるプロパガンダを根絶できると期待しており、そのために努力するつもりです。VOAは反米の声だと言っている人もいる」と言った。VOAやその他の米国資金で運営されているネットワークで働く外国人ジャーナリストが危険に晒されているという質問に対し、レイクは「現在、複数の記者が独裁政権によって投獄されている」と答えた。レイクは「アメリカ人ジャーナリストの安全と安心は重要です。なのに、彼らは自身を守るために十分な対策を講じていないと思う。問題は、なぜもっと多くのアメリカ人を雇用しないのかということです」と述べた。民主党下院議員ビル・キーティング(マサチューセッツ州)は、「それはまるで、これらの人々を擁護している団体を責めるようなものです。彼らは一体何をしているのですか? 何をしているのか教えましょう。彼らはただ、この問題について話し合うために貴方との面会を求めているだけです」と反論した。ネットワークの幹部たちは、レイクと会うことが出来ないと述べている。さらに、現在、VOAのディレクターとして無期限休暇中のマイケル・アブラモウィッツは、レイクの中国の影響に関する主張は根拠がなく「ばかげている」と述べた。
トランプ大統領は3月14日にVOA、ラジオ・フリー・ヨーロッパ/ラジオ・リバティ(RFE/RL)、ラジオ・フリー・アジア(RFA)への資金提供停止を目的とした大統領令に署名した。RFE/RLは3月18日、連邦政府からの助成金打ち切りを阻止するため、ワシントンD.Cで訴訟を起こした。加えて、アメリカ州郡市職員連盟や国境なき記者団などの原告が含まれるVOA職員を代表するジャーナリストと労働組合は3月21日、ニューヨークで訴訟を提起した。ニューヨーク連邦裁判所の判事は3月28日、VOAの閉鎖と活動停止を企てる政権の試みを阻止するため、仮差し止め命令を下した。ワシントンD.Cの連邦判事も4月22日に仮差し止め命令を発令し、政権に対しVOAの番組制作の復旧、従業員の復職、編集上の独立性の確保を命じた。トランプ政権は5月、仮差し止め命令に対し、控訴したが、控訴裁判所は資金支出に関する命令を一時的に停止した。連邦判事は9月に米国政府機関に対する解雇を一時停止する命令を下し、不遵守が続く場合は侮辱罪訴訟の可能性を警告した。
最後に、トランプ大統領によって、米国国際メディア局の縮小を監督するために上級顧問として任命されたカリ・レイクは証拠を提供せずにVOAが「反米」であると示唆した。基本的にVOAを解体し、ほぼ全職員を休職させ、数百人の契約社員を解雇した彼女は6月27日、VOA正社員の85%に解雇通知を送付した。VOAは国際放送局として長年、偏見がなく、特定の政党を支持するような党派性はなく、「真実を報道し、民主主義的価値観を推進することを追求」することで、80年以上世界からの肯定的定評を築いてきた。ほぼ忠誠者で囲まれているトランプ政権は、大統領の政策を積極的に支持していない全ての機関を解体するという点で団結している。そうでない場合、機関に対して、資金提供する意味がない為である。トランプ氏は、2024年の選挙運動で、公共放送公社(CPB)を廃止すると述べており、2025年1月に大統領職に復帰した後、VOA、NPR、PBSへの連邦政府からの資金提供をすべて廃止した。 この措置は2025年5月1日を含む大統領令によって実施され、議会は2025年7月に資金提供の撤回を決議し、最終的にCPBの閉鎖につながった。現在、米国共和党議員らは予算の調整権利を放棄している中で、行政管理予算局(OMB)のラッセル・ボートは多大な権力を振る舞い、連邦機関、職員、助成金の削減又は解体に協力している。しかし、ほぼ全て法廷での紛争に発展しているため、ご承知のようにトランプ政権第一期目より更に深刻な混沌に陥っており、特にVOAを解体することには顕著な葛藤があることを示唆している。