イラン戦争の和平交渉仲介役にパキスタンが選択された理由

ルーズベルト・ホテル Photo credit : The Roosevelt Hotel

ご承知のように、対イラン戦争の和平交渉の仲介役にパキスタンが浮上した。そして、パキスタン政府と交渉する米国政府からの人物は大統領特使のスティーブ・ウィトコフと大統領の娘婿ジャレット・クシュナーである。彼らは現役大統領と同様に不動産業界で長年の経験がある人々である。そして、パキスタンは、米国で今や巨額の不動産であると見られているニューヨークのマンハッタンに存在するルーズベルト・ホテルの所有者である。対イラン戦争終焉の交渉にパキスタンが選出されたことは偶然ではない驚きの事実が明らかになっている。

トランプ大統領は2025年1月20日就任後、ワシントンD.Cに平和委員会を設立した。平和委員会は、文字通り反テロリズムまたは停戦に向けた交渉のために利用されるものである。26日に報告したニューヨーク・タイムスによると、先月28日、対イラン戦争が勃発する前に、外交特使のスティーブ・ウィトコフは、この「平和委員会を利用」して、現在閉鎖されているマンハッタンのミッドタウンに位置するルーズベルト・ホテルの「再開発に向けた検討を行う」ため、パキスタンとの「型破りな不動産取引に関する」会合を開催した。この会合で、ウィトコフは、マンハッタンにあるこのホテルを「取り壊す可能性について合意」し、パキスタンとの間で「有望な新たなパートナーシップ」を結んだと公表した。パキスタン政府は、「極めて注目度の高い立地」にある不動産物件について、ウィトコフ特使に共同事業の機会を打診したと言う。パキスタン政府は「経済発展や仮想通貨など、多岐にわたるテーマについて意見を交わした」という。

ホワイトハウスの高官は、「両政府が当該不動産を共同所有し、多大な利益を生み出す可能性を秘めたパートナーシップである」と説明した。トランプ政権は パキスタンと新たな絆を結ぶキャンペーンにおいて、この時点ではトランプ氏による対イラン戦争と直接的な関連性はなかったが、「紛争が激化するまでの期間において、ワシントン政界におけるパキスタンの地位を向上させる結果」となった。また、イランと565マイル(約909km)に及ぶ国境を接する位置にあるパキスタン当局は、先日終戦に向けたトランプ大統領の「15項目からなる計画」をイラン側に伝達し、「極めて重要な仲介役としての役割を果たした。さらに同国は、両当事者間による協議の開催地として、自国を提供することも申し出ている。これは「パキスタンにとって驚くべき地位の向上」と言える。それにはパキスタンの並々ならぬ努力があった。トランプ氏がホワイトハウスに戻り次第、「大統領に対して惜しみない称賛を送り、大統領の家族とつながりのあるロビイストを雇用し、さらに大統領をノーベル平和賞に推薦し、一連のビジネス取引を次々と成立させてきた。」

トランプ氏が創設した平和委員会は、「現在商業の場としての側面」も強化しており、各国が恒久的な加盟資格を得るには10億ドルもの費用がかかるという。従って、ルーズベルト・ホテルに関する取引を発表する場として、これほど自然な舞台は他になかった」と言う。パキスタンの財務大臣ムハンマド・アウラングゼブがホテルの売却契約を締結する1ヶ月前、彼はある合意書に署名していた。それは、トランプ家とウィトコフ家が創設した「暗号資産」とされる仮想通貨関連の新興企業ワールド・リバティ・ファイナンシャルの関連会社と連携することであった。トランプ政権とパキスタンは、双方にとって利益となる以下のようビジネス関係を築いていたという。

(1)昨春、パキスタン政府は、トランプ氏の元ボディーガードであるキース・シラーを含め、以前トランプ氏の同族企業で働いていたロビイストたちを雇用した。また2025年、両国に利益をもたらす合意をトランプ政権との間で成立させた。これは、重要鉱物資源をめぐる中国の世界的な支配力を削ぐ取り組みの一環として、金・銅鉱山に13億ドルを投資するという確約を成立させた。(2)さらに昨年、「インドとの間で武力衝突が発生した際、パキスタン政府は停戦の実現をトランプ氏の功績として称え、その断固たる外交的介入と極めて重要な指導力」を評価し、大統領を「ノーベル平和賞に推薦する」ことも行った。 また昨年、パキスタン政府がイスラム国(IS)の最高幹部を逮捕した際にも、同国はトランプ氏の歓心を引き寄せることに成功した。 そして6月、パキスタン軍の最高指導者であるサイード・ムニール元帥が、ホワイトハウスの大統領執務室でトランプ氏と非公式の昼食を共にする事で両者間に個人的な信頼関係を築き、両国政権間の関係改善に寄与する結果となった。

(3)2024年春パキスタンはトランプ家及びウィトコフ家によって共同設立されたワールド・リバティ・ファイナンシャル(WLFI)と提携関係を結んだ。当時、同社のウィトコフ氏の息子であるザック・ウィトコフはイスラマバードを訪問し、一連の会談に臨んだ。同氏は、パキスタンの首相と会談を行い、同社の共同創業者たちと共に花火の打ち上げを鑑賞した。彼は1月にパキスタンを再訪し、新たな覚書の締結を発表した。その中で同氏は、パキスタン政府と協力し、仮想通貨を同国の金融システムに組み込むための計画を進めると誓約した。ワールド・リバティ社によれば、パキスタン側は、ワールド・リバティ社が発行する暗号資産の一種である「ステーブルコイン」を、国際送金の決済手段として活用する方策を検討しているという。 この合意発表の場には、パキスタンのアウラングゼブ財務大臣も同席し、ウィトコフ特使の子息と握手を交わし、記念写真の撮影に応じた。

(4)その1ヶ月後、アウラングゼブ財務大臣は、平和委員会の会合において、ウィトコフの父と会談した。この会談は、まさにルーズベルト・ホテルをめぐる取引が本格的に動き出すきっかけとなった。パキスタン政府はこのホテルを取り壊し、跡地に新たな超高層ビルを建設する再開発計画を推進しており、その実現に向けてウィトコフの協力を求めている。この取引は、パキスタン政府と米国連邦政府機関である一般調達局(GSA)との間で締結された法的拘束力のない協力合意である。GSAは通常、他の連邦政府機関が使用するオフィス・スペースの配分や管理業務を担っている。(5)パキスタン政府の民営化委員会委員長を務めるムハンマド・アリは、パキスタン側がこの不動産の所有権の一部を維持しつつ、パートナー企業と組んで再開発を進める意向だという。 イスラマバードにある政府庁舎でのインタビューに応じたアリは、米国政府が今後もこのプロジェクトに関与し続けるかどうかは不明であるとしつつも、GSAとの提携は、パキスタンにとって「信頼性を高める」という点で「極めて大きなプラス要素」であると語った。また、 同氏はパキスタン政府として、今後4ヶ月から6ヶ月の間に、中東諸国の政府系ファンドや米国の不動産開発業者に対して、提携を打診する方針であることを明らかにした。

こうした取引はほとんど前例がないことから、連邦議会の民主党議員らは3月6日に開催された下院運輸・インフラ委員会の公聴会で、トランプ政権がなぜ、パキスタンの不動産であるルーズベルト・ホテルに関する再開発協議に関与しているのか厳しく追及した。民主党下院議員リック・ラーセン(ワシントン州)は、公聴会で、GSAのエドワード・フォースト長官に対し、この取り決めは「全く理にかなっていない。こうした業務を行うことは、GSAの本来の職務ではないはずである」と厳しく指摘した。ラーセン議員はニューヨーク・タイムス紙に寄稿した声明の中で、「パキスタン政府が所有する不動産に対し、GSAがいったいどのような関心や利益を見出しているのか、その理由を説明している情報をGSA側からは一切受け取っていない」と述べた。連邦議会の公聴会に出席した元不動産業界の幹部出身であるGSA長官のフォーストは「覚書に署名したか」どうかを問われ、「署名した」と答えたが、それは「米国政府に対して法的拘束力のある義務を課すものではない」と述べた。

最後に、パキスタンが米国とイランとの和平交渉において、「仲介役」として浮上しているのは、米国とパキスタン両国が不動産を含むビジネスを中心とした深い関係があることに関連している。ちなみに、1924年9月22日に開業した歴史的なルーズベルト・ホテルは26代米国大統領セオドア・ルーズベルトにちなんで名付けられた。当時、このホテルはニューヨーク・セントラル鉄道およびニューヨーク・ニューヘイブン&ハートフォード鉄道が所有していたが、2000年からパキスタン国際航空がホテルの建物を所有するようになった。同ホテルは、コロナウイルスの蔓延中に閉鎖され、その後、一時的に移民向けの避難施設として再開された。米国およびパキスタンはいずれも、イラン紛争の早期解決が双方にとって利益になることを指摘している。「イラン国内の情勢不安が長期化すれば、イラン国外では世界最大級の規模を誇るパキスタンのシーア派地域社会が動揺しかねない」と言う。また、ホルムズ海峡の封鎖化は、パキスタンの経済活動も停滞させている。その状況下で交渉の仲介役を担うことは、パキスタンが「欧米やアジアにおける存在感を高める可能性があるだけでなく、宿敵であるインドを外交の舞台から引き下ろすことにもつながる」と言う。パキスタン政府の元政策担当官で、ジョージ・ワシントン大学の講師も務めた経歴のあるフセイン・ナディームは「パキスタンの軍事中枢組織の本来のあり方として、彼らは米国の国益に緊密に歩調を合わせようとする傾向があります」と語った。同氏はさらに、トランプ政権時代において、パキスタン側は一種の「仮想通貨外交」とも言える政策を追求していると示唆した。

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