支持率が底をついている中で、トランプ大統領の16日のスピーチは不正選挙が主要なテーマであると予測されていたため、恐らく多くのテレビ・ニュースは放送しないだろうとの予感がありました。その予感の大部分は正解でした。スピーチが始まる東部時間午後9時にテレビをオンにしたところ、CNNは通常の様に複数のゲストと論議しており、約10分経過後も変化がないため、MSNOW、 CBS、 Fox News、ABC、NBCのチャンネルを数分置きに数回チェックしたところ、CBSは放送し続けており、保守系のFox Newsは司会者がスピーチの内容を解説していました。CNNとMSNBCは部分的に放送し、ABCとNBCはトランプ氏のスピーチを放送していないようでした。トランプ氏は16日、ABCとNBCが放送免許を失うべきだと述べました。
トランプ大統領は16日の午後9時から25分のホワイトハウスでのスピーチで、「中国が『史上最大規模の選挙データ侵害』を行ったと主張し、それを隠蔽するために米国内の人物らが大規模な工作に関与したと非難した。トランプ氏は米国の選挙の安全性について広範な批判を展開し、2020年の選挙は『盗まれた』とする未証拠の主張を繰り返したものの、今回の疑惑をめぐって中国に直接的な制裁措置などを講じる可能性については言及することはなかった。トランプ氏は、中国の諜報機関が2億2,000万人分の米国有権者データを取得したと述べ、これを『選挙の安全保障における前例のない悪夢』と呼ぶとともに、情報機関の関係者らが『中国による悪質な選挙干渉の規模』を隠蔽したと非難した。 『中国政府は、次期大統領選で私が敗北することを望んでいた。彼らが私の敗北を望んだ理由は、私が彼らのやり口を見抜いていると知っていたからだ』と語った。 在米中国大使館は16日、これらの非難を否定した。報道官のLiu Chang(劉暢)氏は、『中国は米大統領選に干渉したことはなく、今後もしない。中国は一貫して、他国の内政に干渉しないという原則を堅持してきた』と述べた」とワシントン・ポストが17日に報告しました。
ロイターが16日に伝えたところによると、トランプ米大統領は同日、「中国による米選挙への干渉を示すものだと主張する文書の機密指定を解除した。自身の敗北に終わった2020年の選挙結果に中国が影響を及ぼした証拠はないとする米情報機関の判断があるにもかかわらず、同大統領は選挙の公正性に対する長年の批判を再燃させた。2021年にまとめられた米情報機関の非機密性の評価報告書では、有権者登録、投票用紙、集計、あるいは最終結果など、2020年大統領選の投票に関する「いかなる技術的側面」についても、外国勢力が改ざんを試みたり、実際に改ざんに成功したりした形跡は認められないと結論付けられている。この評価は、当時トランプ政権下で国家情報長官を務め、現在はCIA(中央情報局)長官であるジョン・ラトクリフ氏の指揮下で実施されたものである。同報告書は、中国が少なくとも2008年以降、米国の有権者、世論、政党、候補者、政府高官に関する情報の収集を行ってきたことも指摘している。中国側は、選挙結果の予測にこれらの情報を利用しようとしていたものとみられている。この件に詳しい2人の関係者によると、中国が入手した米国の有権者データは機密情報ではなく、有権者名簿は政治コンサルタントなどが日常的に購入しているものであり、改ざんが可能なものでもなかった」と記述しています。
ニューヨーク・タイムスの17日の報道は、トランプ氏のスピーチの要点について述べており、大統領がスピーチに利用した文書の機密性を解除したとして、昨夜のスピーチを次のように説明しています。(1)「選挙の脆弱性に関する主張を誇張し、 側近がオンラインで公開した文書を恣意的に引用し、米国の選挙が長年にわたって不正に操作されてきたこと、そして政府当局者がその証拠を隠蔽してきたこと」を示唆した。(2)「米国の投票システムの安全性について時には常軌を逸した主張を展開した。トランプ氏はここ数ヶ月、米国の選挙結果が様々な勢力によって『不正』に操作されてきたと言い、長年にわたる根拠のない主張を強めている。」(3)同氏は演説の中で、「ミシガン州マスキーゴンでの有権者登録団体に関する捜査の文書について言及した。同氏はこれらの文書が機密解除されたばかりであると主張したが、捜査そのものは以前から公に知られていたものである。それまで公開されていなかったこれらの文書には、同団体の元従業員らが、割り当てを達成して報酬を得るために、有権者登録用紙に虚偽の情報を記入するよう促されたと証言する内容が含まれていた。しかし2020年10月、現地の選挙管理担当者は、数百件の『不規則な』申請が発見されたものの、それによって投票用紙が誤って送付されるような事態は一件も生じなかったと述べている。」
(4)トランプ氏は「ベネズエラによる開票操作の能力について、新たに機密解除された文書の内容を再び誇張して伝えた。ホワイトハウスが公開した文書には、CIAによる分析が含まれていた。その分析では、ベネズエラ当局が国内の選挙結果に影響を与えるために『電子投票システムを操作する一定の能力』を有していることは認められたものの、自国以外の選挙を不正に操作する能力までは保持していないと結論付けられていた。」(5)「選挙のセキュリティに言及したトランプ氏は、主に外国からの干渉に焦点を当てた。2019年に中国政府が自身を失脚させようと画策したとされる動きについても言及した。しかし、ホワイトハウスが公開した文書は、大幅に黒塗りされていたとはいえ、その結論において遥かに慎重な表現にとどまっていた。地方、州、連邦の各レベルで数十回に及ぶ調査、監査、再集計、法廷闘争が行われたものの、大規模な投票不正の事例は一つも確認されていない。それにもかかわらず、トランプ氏は2020年の選挙が自身に不利な形で不正操作されたと長年主張し続けている。2020年選挙の最終結果に関するトランプ氏の表現は、普段より及び民主党や一部の共和党員が予想していたものよりも慎重なものであり、自身が実際にその選挙で勝利したと宣言することはなかった。しかし同氏は、米国の投票プロセスのほぼあらゆる側面について、広範かつ断定的な主張を行った。すなわち、数千万人の米国有権者の情報が中国に容易に入手されたこと、有権者登録活動には不正がつきものであること、そして投票機は操作可能であることなどである。」
トランプ氏が「中国は2020年の選挙に影響を及ぼそうとしたと主張しているこの問題は情報機関当局者の間でも内部議論の対象となっていた。2020年の選挙やその他の選挙において、外国勢力や州・連邦レベルの当局者による大規模な不正や票の操作が行われたとする大統領やその支持者らの主張は、度重なる捜査や監査によって否定されている。連邦当局は長年にわたり、特に外国からの干渉に関連して、選挙の脆弱性に関するいくつかの正当な懸念を指摘してきた。しかし、トランプ氏による誤った主張は、時にそれらの懸念を誇張したり、あるいは実態を曖昧にしたりしてきた。(6)大統領は、議会に対しSAVE America Act(米国救済法案)を可決するよう改めて求めた。この法案は、全米規模での有権者本人確認の義務化や、郵便投票の大幅な制限を盛り込んだものである」と伝えています。
ニューヨーク・タイムスのベテラン記者であるホワイトハウス特派員ピーター・ベイカー氏は17日の掲載記事で、民主主義が危機に直面する瞬間とも言えるトランプ氏のスピーチを分析し、複数の専門家の意見を紹介しています。ベイカー氏によると、トランプ大統領は16日夜25分間のスピーチで、「ディープ・ステート(闇の政府)、不正操作され盗まれた、共謀、操作、腐敗、詐欺、隠蔽といった、極めて衝撃的な言葉を多く使った。そして、トランプ氏が世間に向けて何としても伝えたかった核心的なメッセージは、2020年選挙の結果がどうあれ、自分は『敗者』ではない、自分を阻もうとする『闇の勢力』が暗躍していたからだ。さらに彼は、この秋の中間選挙で自身の党が敗北したとしても、それもまた公正な結果とは言えないかもしれないとほのめかした。ホワイトハウスのイースト・ルームから行われたトランプ氏のゴールデン・タイムの演説は、驚くべき光景であった。同氏は、選挙、少なくとも自身や自身の陣営が敗北した選挙は、信頼に値しないと国民に納得させることに執念を燃やしていた。彼は、選挙制度の脆弱性についてセンセーショナルな主張を行うために、意図的に機密解除された文書を引用したが、実際に選挙結果が覆ったことを裏付けるような事実は何一つ示されなかった」と述べています。
ベイカー氏は、さらに「復帰後の1年半の間に、彼は選挙結果を否定する人物を要職に据え、投票を困難にするよう規則変更を試み、自身の陰謀論を裏付けるために投票記録を押収し、さらに6年前の選挙敗北を覆そうとした自身の動きを調査した当局者たちを排除してきた」と述べています。連邦選挙委員会の元委員長を務めた共和党のトレバー・ポッター氏は、トランプ氏に言及し、「白鯨のエイハブ船長のような雰囲気が漂っている。彼は、2020年の選挙で負けたわけではないという主張に固執し続けている。素人心理学者は、彼が負けず嫌いで、何事においても敗北を認められない性格なのだと言うかもしれない。しかし、その主張は明らかに彼の精神構造の重要な一部となっており、ある意味では、この政権にとっても重要な要素となっている。トランプ氏に近い関係者は2020年の歴史を書き換えようとする同氏の執念にはある側面がある。それは、何事においても敗北を認めることを本質的に拒む男の傷ついた自尊心を癒やそうとする動きだということである。彼は、当時勝利したのはジョセフ・R・バイデン・ジュニア氏ではなく自分であるという『嘘』に同意すること、あるいは少なくともそれに異を唱えないことを自身の部下たちに対する忠誠心をリトマス・テストしている」と言います。ハーバード大学で30年にわたり政治学を教え、選挙の公正性プロジェクトの初代ディレクターも務めたピッパ・ノリス氏は、「選挙で不人気ゆえに脅威を感じたり、開票の結果敗者とされたりした際、選挙というゲームのルールそのものに疑義を唱えるというのは、ポピュリズムを掲げる権威主義的な指導者によく見られる常套手段である。実際、それこそが、この大統領が10年以上にもわたって繰り返してきた決まり文句なのである」と指摘しています。
最後に、トランプ氏のスピーチの大部分は、情報機関の報告書は中国がトランプ氏の再選を阻止しようとしていた事を示唆したものの、中国が選挙結果を操作するために何らかの行動を起こした事もなければ、大統領は、2020年の選挙に彼が勝利したと断言することもなかった事を示しています。また、ホワイトハウスがトランプ氏の演説中に「オンラインで公開した数百ページに及ぶ文書」からは、中国がトランプ氏を落選させるために2020年の選挙に介入したという主張を裏付けるような事実は確認されなかった事を示しています。「2020年7月の報告書はトランプ氏ではなく、ジョー・バイデン氏が標的であった」と示唆されています。更に、「2021年3月に国家情報会議が公表した報告書では、中国政府が2020年の選挙結果に影響を及ぼそうとはしなかった」と結論付けられています。昨夜のトランプ氏のスピーチは大幅にニュース・メディアが放送を拒否したことで、劇的な歴史の一幕となりました。Fox Newsは全面的に報道したとするメディアもあれば、最初の5分のみであるとの説もあります。断片的にトランプ氏のスピーチの様子を観察しましたが、印象として、彼の支持率が全ての側面で惨めな状況であるため、党が敗北することを恐れ、彼の党が敗亡に追い込まれないために、死に物狂いになっているように感じられました。彼の表情は2020年の選挙日に、選挙結果が判明する前から「裁判所に行く」と言った時のパニック状態の表情を回想させるものがありました。そして、2020年の選挙には中国が介入したと主張し、共和党議員らが投票を制限するためのSAVEアメリカ法を可決するよう促しました。米国救済法案は投票抑圧の法案とも呼ばれています。トランプ氏のスピーチが始まると、ホワイトハウスは、彼らが最近調査したとされる大幅に黒墨された文書を公開しましたが、文書を吟味した主要メディアは、トランプ氏の主張を裏付ける物は何もなく、証拠と言えるものではないと述べています。しかし、このスピーチの目的について警戒すべきことは、トランプ氏が2020年と同様の選挙転覆の努力を2026年の中間選挙でも行う可能性があると示唆していることです。