米国には、1986年に設置されたSAVE(Systematic Alien Verification for Entitlements:受給資格に関する外国人確認)と呼ばれるシステムがあります。これは米国国土安全保障省(DHS)および米国市民権・移民局(USCIS)が管理するプログラムです。連邦、州、および地方自治体の機関又はそれらの機関を代理する請負業者が給付、許認可、助成金、あるいは政府発行の資格・証明書等の受給資格を判断したり、米国内の個人の移民・国籍や身元調査を行ったりするのを支援するために設計された、政府間連携の取り組みです。
米国は1986年以来、長年このシステムを利用していますが、このオリジナルのSAVEシステムを修正することで選挙のために利用することを試みる大統領は過去に存在しません。2025年3月25日、トランプ大統領は、このオリジナルのSAVEシステムに米国民の市民権情報、社会保障番号、その他の機密データを統合することで、社会保障番号を用いて有権者登録状況と市民権の有無を照合できるようにする大統領令14248号を発行しました。つまり、トランプ氏は上記オリジナル版のSAVEシステムを修正する大統領令を発行したのです。そして、国土安全保障省と社会保障庁に対し、州および地方自治体が有権者の市民権と移民的地位を確認できるシステムを構築するよう指示したのです。
6月22日、DCの連邦地方裁判所のスパークル・L・スークナナン判事による覚書形式の意見書によると、この大統領令を受けて、全米女性有権者連盟(原告)は、ワシントンDCの連邦裁判所に提訴し、SAVEシステムが修正されたとして、大統領令の執行を停止するよう求めました。スークナナン判事は「本件に関する包括的な弁論書を検討した結果、裁判所は原告側の主張の方が優れていると確信した」と述べています。そして、女性有権者連盟およびテキサス州女性有権者連盟が「訴訟を遂行する当事者適格を有すると結論付ける。これらの団体の構成員は、プライバシーや名誉の侵害、有権者としての不利益、および手続上の不利益という3種類の不利益を被った」とされる原告申立に対して、意見を記述しています。スークナナン判事は「原告らはまず、修正されたSAVE記録システムが社会保障法に違反すると主張している。その主張は正しい」とし、「1990年10月1日以降に制定された法の規定に基づき、権限ある者が取得または保持する社会保障口座番号および関連記録は秘密として扱われるものとし、権限ある者は、当該社会保障口座番号または関連記録をいかなる者にも開示してはならないと規定している」と解説しています。一方、政府側は、社会保障法に関して何の論議できなかったと判事は述べました。
更に、判事は修正されたSAVEシステムが、「連邦プライバシー法、社会保障法、憲法上の権力分立に違反している」と書いています。更に、同判事は修正されたSAVEシステムがこの禁止規定に違反していることは疑いの余地がありません。同システムは、社会保障番号とSSA(社会保障局)が管理する関連記録の双方を開示するものであるからです。被告側(米国国土安全保障省)もこの点について異議を唱えてはいません。その代わりに被告側は、原告には社会保障法を執行するための訴訟上の請求権がないと主張していますが、その根拠として、APA(行政手続法)に基づく請求権が問題とならなかった不適切な判例を引用しています。しかし被告側は、APAは他の法律への違反に対して包括的な訴訟原因を提供するものであるという点を見落としています」と記しました。また、「重要な点として、この暫定的な『システム』は、社会保障庁(SSA)が『確認または非確認以外の社会保障情報を開示または公開する』ことを許可しておらず、また、SSAが当該プログラム内の『いかなる情報、データベース、その他の記録』を『その他の目的で利用する』ことを禁止している」と述べています。
「さらに、プライバシー法に目を向けると、原告らは、修正されたSAVEシステムが同法による実体的および手続的な保護規定に違反していると主張している。これに対し被告らは、原告らがAPA(行政手続法)に基づきこれらの主張を行う適格性を有していないと異議を唱えるとともに、いずれにせよそれらの主張は認められないと論じている。原告らの主張の方が説得力はある」と述べ、プライバシー法について詳細な論議を展開しています。1974年に制定されたプライバシー法について、同判事は「連邦議会は同法を制定する際、政府の「データバンク、自動データ処理プログラム、および情報システムを調査し、同法の要件および原則に合致する運用慣行を大統領に提言するとともに、政府の正当なニーズを満たしつつ個人のプライバシーを保護する」ための立法上の提言を議会に対して行う専門機関として、プライバシー保護調査委員会を設置した」と説明しています。
スークナナン判事の判定に対して、トランプ政権は、控訴裁判所へ上訴しましたが、訴訟当事者に対し、速やかに弁論日程を提示するよう指示しました。しかし、控訴裁判所での判定が下される前に、米国訟務長官ジョン・サウアー氏は9月8日、米国最高裁に対し、訴訟が継続する間、連邦地方裁判所のスークナナン判事の禁止命令に対して、全国的な差し止め命令の執行停止を求めました。サウアー氏は、スークナナン判事の判決は「州からの要請に応じて、投票その他の目的で個人の市民権を確認するという義務を果たす際に、連邦政府が社会保障データを内部的に利用する権限を剥奪することで、今後の選挙の公正性を脅かす命令」であると主張しました。さらに、原告側には訴訟提起資格がないため、スークナナン判事には命令を下す権限がないと述べ、SAVEシステムは「連邦政府が市民権を確認できるかどうかを州に通知するに過ぎない」ため、原告側とその関係者が被る可能性のある損害はないと主張しました。一方、原告側の女性有権者連盟の弁護士らは9月15日、最高裁判事らに対し、スークナナン判事による決定を維持するよう求めました。組織を代表する弁護士は「政府は、誤りの多い市民権に関する主なデータベースを無謀に作成し、何百万人ものアメリカ人のプライバシーと投票権を脅かしている」と主張しました。 また、この団体は、最高裁の過去の判例を引用し、自分たちには訴訟を提起する法的権利があると強調しました。
2026年9月25日に公開された19ページの裁判所意見の50%以上は、最高裁判事多数派の決定に対して、少数派の意見を代表したケンタンジ・ブラウン・ジャクソン判事が記載したものです。スークナナン判事の判定を頻繁に引用した彼女の意見にはエレナ・ケーガン判事およびソニア・ソトマイヨァ判事が同意しました。ジャクソン判事は、連邦地方裁判所がトランプ氏の大統領令を『無効にした』ことについて、多数派判事らの決定は『執行停止がなければ政府は回復不能な損害を被ると判断している』からであると指摘しました。「もし政府が、修正されたSAVEプログラムが社会保障法に適合していることを立証できないのであれば、政府がそのプログラムを使用できなくなることは、法的に認められるべき『損害』には当たらない。政府が法に違反することを『妨げられるたびに』『損害を被る』などということはあり得ないからだ。それに、 政府が『主張する損害』は、2025年以前のSAVE版を使用できることによって、実質的に軽減されている」と論破しています。「また、多数派意見は天秤の片側しか見ていない。これは、片側にしか重りが載っていないシーソーが正常に機能すると期待するようなものであり、司法判断として不適切である。当該決定の見解によれば、ここでの唯一の損害とは、連邦地方裁判所の命令が中間選挙の適切な実施において州や地方の機関を支援しようとする連邦政府の取り組みを阻害するという点にある。まず前提として、この見解は政府が被る損害を過大評価している。なぜなら、いずれにせよ州は、選挙の90日前以内にはSAVEを利用して有権者名簿から組織的に有権者を削除することはできないからである。来るべき選挙へのSAVEの適用はすでに制限されることになるのだから、下級審での訴訟手続きが完了するまでの間、政府がどのような損害を被るというのか理解しがたい」と書いています。
ジャクソン判事「さらに懸念されるのは、修正されたSAVEシステムの運用継続が許された場合に生じうる損害について、多数意見が何ら考慮していないことである。 連邦地方裁判所はそうした損害を指摘し、州が少なくとも一部の最近帰化した市民の有権者登録を取り消したり、あるいは投票前にそうした人々に市民権の証明を強いたりするリスクがあることに言及している」と書いています。更にスークナナン判事が指摘した実例につて、「テキサス州では、申立人の構成員の一人が『本人の知らないうちに有権者登録を取り消され』、さらに二人が『有権者登録の資格を維持するために市民権の証明を提示せざるを得なくなった』のである。とはいえ、本日の決定に何らかの救いがあるとすれば、それは、この決定が短期的に及ぼす影響は軽微にとどまる可能性が高いという点である。なぜなら、各州が11月の選挙に向けて行う有権者名簿の整備作業は、せいぜい修正されたSAVEシステムを用いた個別的なものに留まるからである。たとえ少数の適法な有権者であっても、彼らに負担を強いたり投票権を奪ったりすることで生じる不利益は、政府が本来有していない可能性が高い権限を行使することを阻止された場合、そもそも存在しない『不利益』を上回るものであるとし、政府の主張には『説得力がない』為、差し止め命令の執行停止を却下すべきであった」と指摘しました。
最後に、6 月22 日のスークナナン判事の判定は、連邦政府が、アメリカ国民のプライバシー権を意図的に侵害し、各州は連邦政府と連携してデータベースにアクセスすることを可能にし、アメリカ国民を積極的に有権者名簿から削除するシステムを促進することで、投票の権利を脅かしていると示唆しました。その後、トランプ政権は控訴裁判所の判定を待たず、米国最高裁に緊急請願を求めました。9月25日、再度署名のない、投票数もない一時的な判定を下しましたが、保守派6人の中でどの判事が、女性判事3人で構成されるリベラル側に参加したか公表していませんでした。25日の裁判文書は、オリジナルのSAVEシステムに関する説明、2025年3月の大統領令下で修正されたSAVEシステムがどのように機能するか、また、これに関連する大統領令に異議を唱えた訴訟の経緯を詳細に記述しています。2025年1月20日から5月下旬まで、政府効率化局の責任者であったとされる富豪者のイーロン・マスク氏は、社会保障庁の米国民および合法移民のデータにアクセスしたとメディアが報じたことで、個人機密情報は、既にトランプ氏が就任した直後から脅かされていました。SAVEシステムは長年、様々な政府プログラムを受ける資格があるかどうかを検証するために、合法移民および外国在住者の法的地位を確認するために利用されていたものでしたが、これを社会保障庁の更に詳細な個人の機密情報を統合することで、選挙に利用するためにオリジナル版を修正した歴代大統領は存在しません。今回、最高裁はその合法性については決定を下していません。控訴裁判所が決定するまで、現在の政権の取り組みを一時的に認可しただけです。