ベテラン衆議院議員の小沢一郎氏が2010年8月25日に「アメリカ人は単細胞で単純思考の国民なのか」という意味の発言をした12時間後にアメリカの多くのメディアはその発言を一斉に報道した。アメリカ国民に対する軽蔑なのか、それとも単なる軽はずみな発言なのか「小沢氏の本意は具体的に掴めない」というのが、メディアの共通する印象であった。発言の内容については、いずれもほぼ同じ記事を翻訳して引用していた。ワシントン・ポスト紙を例にあげると、「私はアメリカ人が好きだが、彼等は単細胞のようだ」と述べ、また「アメリカ人と話しをするとき、しばしばアメリカ人は、なぜこんなに単純思考なのだろうかと思う」と述べている。CBSニュースは、小沢氏が「アメリカ人は非常に頭が良いとは思わないが、国の民主性と歴史上初の黒人大統領を選んだ人々に最大の評価を与える」と述べたと伝えている。
この報道は1986年、当時の首相であった中曽根康弘氏が「アメリカにはヒスパニック系が多い為、知的水準が低い」と発言したことから日米間に大きな支障が生じ、結局、中曽根氏が謝罪する結果になった歴史を思い起こさせる。日本の著名な指導者がアメリカ国民に対する一般的な印象や意見を述べると、アメリカのマスコミは日本のマスコミより敏感にしかも迅速に報道する傾向があるため慎重であるべきだ。また、アメリカのマスコミは、このような発言の真意を憶測する傾向があるため、具体性と説得力に欠けるコメントは誤解を生む結果になるだけでプラスにはならないことを中曽根氏の例から学ぶべきである。事実、ワシントン・ポスト紙は、小沢氏が表現したと思われる「単細胞」の表現を、英語で “monocellular organisms”と翻訳しており、これは「近視眼的であるとか馬鹿などの意味にも使われる」と解釈されている。
当然この小沢氏の発言に対して、アメリカ国民の様々な反響が寄せられた。中でも、ハッチントン・ポスト紙には4,000以上のコメントが寄せられ、他紙のコメントなども合わせると、総体的には大半の投稿者は怒っており、日本に対する皮肉な意見もあった。しかし、小沢氏の見解に同意する意見も若干あったことに驚きを感じた。同意を示した意見の例には、現在の情報化時代の風潮について、それが原因となっているアメリカ人の「単細胞的」傾向について考えさせられる意見もあった。例えば、ある有名なニュース番組は「単にニュースを報じるだけではなく、どのように考えるべきかを国民に伝えており、素早い情報の流れについていけず、現実に起きていることを理解することが益々難しくなってきている一般の国民にとって、理解できやすい表現で国民をガイドするこのような番組をあえて好んで見る人たちは、事象を簡単な表現で理解できればいいと思っているからだ」と述べている。
事実アメリカには、正統派のニュース番組と言うより、エンターテイメント化した報道番組も存在し、ブラック・ジョークがいつのまにか、真実であるように信じられてしまう驚くべき現象がある。例えば、ハワイで生まれたオバマ大統領に対して「オバマはアメリカ国民ではない」など。また、当時提起されたグランド・ゼロの場所に、モスクと呼ばれるイスラム教の礼拝所建設の論争についても、オバマが憲法に基き、信仰の自由を保証する旨の声名を行うと、本人は正真正銘のキリスト教信者であるにも関わらず、そのような番組に影響された国民が「オバマはイスラム教信者である」と真剣に思いこんでいた。これでは「単細胞的だ」と言われても仕方がない。一つの情報だけに頼らず、あらゆる情報を吟味して、一体どの情報が正しく、どの情報が間違っているのか分析する知的探究心に欠け、近視眼的であるという意味では、大半のアメリカ国民が「単純化思考」傾向になっている現実を無視できない。アメリカ国民に対する知覚力に対しては完全に否定できないものがある。
現在も、一部のアメリカ人は単純思考または単純であると思うことが多々ある。ケンブリッジ辞書によると、単純思考または「単純な人は、理性を働かせて理解する能力がない。単純な行動や意見は、状況の限られた理解に基づいている。」と説明している。2020年8月、ディリー・ビーストのコラムニストであり、「不潔な金持ちの政治家」の著者であるマット・ルイスは「我々は全てそのような単純な人々である」と考えているドナルド・トランプが、単純思考であると示唆した。例えば、トランプは「厄介者」または「郊外の主婦」という 2 つの側面だけで女性を評価していた。しかし、彼は「時代遅れ」の感覚で女性を見ており、大卒の白人女性は概して1950年代のような「主婦」ではなく、彼らは「トランプによって解き放たれた下品、混乱、不安に反発した働く母親である」ことを知らないと指摘した。
また、トランプは「民主党に投票するユダヤ人は不誠実であり、移民や外国人は汚く、真のアメリカ人とはみなされない」と示唆した。彼は2016 年の大統領選で、「彼が私たちに売った自分自身の風刺画(富と成功の偽のイメージ)と他人のイメージ(嘘つきテッド・クルーズ、曲がったヒラリー、フェイク・ニュース)のような捻れた世界観を表明することで、十分な数の有権者はトランプを勝利に導いたが、「ある時点で、彼の世界に対する歪んだ見方は、長所から不利に変わり、2020年に、彼は自分を大幅に敗北させる」ことになった。2022年5月の研究では、トランプ支持者はバイデン支持者よりも「認知的に複雑な言語を使用せず、単純な考え方」であることが判明している。つまり、政治心理学の分野からの証拠は、保守派がリベラル派よりも単純であることを示唆する傾向があるという。