米国を嫌っているのは主に保守系のアメリカ人か?

Why Does the Right Hate America by Paul Krugman                      The New York Times : Nov.6, 2023

ノーベル受賞の経済学者ポール・クルーグマンは現在米国の民主主義が危機に陥っているとの懸念を表明している。これはこの記事の主要な課題ではないが、約50年前と比較し、現在の米国が肯定的および否定的に大きく変化したことの一部を説明している。彼らの好みに合わない変化をリベラルの責任であると考えている右翼に警告しているクルーグマンの掲載記事は注目に値する。

クルーグマンはこの記事の文頭で、米国は「反対派が権威主義的な傾向(an authoritarian bent)を持つ政府の権力に直面する可能性は十分に(entirely possible)ある。 それが誇張のように聞こえるなら、あなたは注意を払っていない」と指摘している。彼は 「政治の領域を超えた(beyond the political realm)アメリカも危機に陥っているのか、社会の全ての根幹が崩れつつある(very foundations of society eroding)のかどうか」についても疑問を提起している。タイムス紙に掲載されたデイモン・リンカーの最近のエッセイを引用したクルーグマンは「多くの右翼の人たちがそう考えているようだ」と述べ、「彼らが描いた米国の悲惨な肖像画(the dire portrait)」があると述べている。例えば、パトリック・デニーンの「政権交代」を引用し、出産率の急上昇、絶望死の増加、医薬品や電子機器への依存症の蔓延(widespread addictions)、緩慢な不満感(a dull ennui)、精神的絶望が蔓延しており、右翼は「これらすべてがリベラリズムの悪影響による(the malign effects of liberalism)ものだと考えている」と述べている。

「このような考えを持つ人々は、外に出て周りを見回したことがある(ever go outside and look around)のか? 彼らは個人的な記憶や読書から、30年前、あるいは50年前のアメリカがどのような国だったのかを少しでも知っているのか?」との疑問を提起している。確かに、約50年間で米国社会が大きく変化したが、「必ずしも良い方向に変化したわけではない。不平等は拡大し、絶望的な死が現実の現象となっている。しかし、近年のアメリカに対する右翼批判の多くは、ディストピア幻想(dystopian fantasies)または想像上の社会だけでなく、何世代も時代遅れのディストピア幻想に根ざしているように見える。保守的な人の心の一部には、常に 1975 年を意識しているようである。1970 年代と 1980 年代のタイムスクエアは麻薬、売春、犯罪で荒廃した都市(blighted cities)の一部であった。その変化は驚くべきものであった(transformation has been incredible)」と述べている。

「それはニューヨーク中心的な見解であり、米国すべての都市がニューヨークと同じようにうまくいっているわけではない。ただし、右派の多くは、米国で最も安全な場所の一つ(one of America’s safest places)が都会の地獄絵図(an urban hellscape)であると信じ続けていることは注目に値する。しかし、1990年から新型コロナウイルス感染症の蔓延前夜までの間に、米国広範囲の都市で復興(a broad-based U.S. urban resurgence)が起こり、これは主にかなりの数(a significant number of)の裕福なアメリカ人が都市生活に戻ってきたことによるもので、彼らは都市が提供するアメニティの価値を益々重視し、暴力犯罪が1990 年以降に激減した(plunged)ことにより不安が減少した」と書いている。

家族生活も変化している。以前に比較すると、未婚者が増加し、女性の雇用機会の拡大(expanded job opportunities for women)に伴い、女性は不幸な結婚生活を終えたことで、一時的に離婚が急増したが、「1980 年頃から結婚生活は新たな社会現実に適応する(adjusted to the new social realities)につれて、離婚率に大幅な減少(a huge decline in divorce rates)がある」。この状況について、クルーグマンは「古き良き時代(good old days)」には多くの静かな結婚生活の悲惨さ(quiet marital misery)があり、現在その一部は過去のものになったことを意味すると解釈している」と述べている。また、出生率の低下(declining birthrates)にも言及し、「道徳的退廃の指標(an indicator of moral decay)」かもしれない「重要な要因は10代の妊娠(teenage pregnancies)、特に15歳から17歳の女性の間で、大幅な減少がある」ことを強調している。

米国では麻薬、アルコール、自殺による死亡が社会問題の一つになっているが、「その発生件数は、比較的教育水準の高いリベラルな大都市ではなく、保守的傾向がある地方地域で不均衡に(disproportionately)発生している」ことを示している。彼らは「大都市圏への収入と雇用の移動を引き起こした経済的要因によって立ち往生している(stranded by economic forces)取り残された農村地域(left-behind rural regions)の人々である。依存症を引き起こす精神的絶望(psychic despair)があるとすれば、それは就労できないことからくる絶望であり、伝統的な価値観の低下からくる絶望ではないようである」と述べている。

クルーグマンは、この記事の最後に、「誰もがこれを前向きな変化(a positive change)だと考えているわけではない。実際、一部の右翼の人々は、彼らが想像しているもっと単純で純粋な米国とは対照的に、私たちが実際に住んでいる複雑で多様な国(a complex and diverse nation)であるアメリカを明らかに嫌っている。そして、あなたがより伝統的な社会関係、より多くの人々が伝統的な宗教形態を実践する社会などを望むのであれば、それはあなたの権利です。 しかし、自分の好みと合わないから社会が崩壊しているなどと虚偽の主張(claim falsely)をしたり、あらゆる社会問題をリベラリズムのせいにしたりしないで(blame liberalism for every social problem)ください」と請願している。

結論として、貧富の差が現在ほど顕著ではなかった時代の第二次世界大戦後の経済ブームによって、アメリカ人の生活に変化が生じただけでなく、米国が世界で経済的なリーダーの役目を果たすようになって以来、米国はもっと複雑に変化し始めた。そして、1980年代から、富は一部のアメリカ人と企業に集中するようになり、多国籍企業が台頭するようになった1990年代からその貧富の差は拡大し続けた。更に、歴史的な人種問題は米国の最も複雑で悲惨な社会問題の一つであり、有色人種を含む一部のアメリカ人は、不平等な扱いによって、教育と経済向上が奪われた。彼らは1990年代から徐々に都会に移動し始め、貧困地域社会を形成する結果になった。独特な特徴がある人種に関連する米国社会の複雑性は、一部の白人の権力維持を求める人々の弾圧にも関連している。右翼系は、多様文化と多様人種を嫌い、科学より宗教を好む傾向がある。保守派は単純な古い伝統と宗教を好み、複雑で多様である新しい変化を嫌う傾向がある。もっと複雑になった米国社会の変化はリベラル派から来ていると誤解している彼らは、間違った信念に基づきリベラル派を批判している。郊外に住み、高度な教育歴がない白人は保守的傾向があり、彼らは、優秀な移民に仕事を奪われる懸念を抱き、移民に対して、人道的な対応をするリベラル派の大統領を支持しない現状がある。右翼系の有権者は、2017年1月に就任し、複数のイスラム教国から人々の米国入国を禁じたドナルド・トランプの移民政策を圧倒的に支持したことはご承知のとおりである。そして、中央アメリカから逃亡した家族は単なる不法移民ではなく、難民である可能性が高いため、子供を両親から引き離す政策は、論争的である。保守系の有権者がこれらの政策を支持しているという現状は、近年の米国の脅威の一例であり、2020年の選挙転覆のため米国議事堂が襲撃された事件は民主主義の象徴である自由な選挙が脅された最も深刻な例として、民主主義が危機に陥っていると懸念する学者が増えていることに注目されている。

アメリカ・ウオッチ- Yuko's Blogをもっと見る

今すぐ購読し、続きを読んで、すべてのアーカイブにアクセスしましょう。

続きを読む