学者や専門家の間では、世界的に民主主義が弱体化し、政治的極右が台頭し、権威主義的になっている背景には、新型コロナウイルスのパンデミックが政治的影響をもたらしたという論説がある。専門家は、COVID-19の脅威が到来した2019年以来、世界の民主主義の後退は顕著な率で増加し、米国も含めて110カ国以上の国が政治的自由をある程度失っていると述べている。非自由主義的傾向を専門とする米国の複数の顕著な学者は、世界的に蔓延した新型コロナウイルスが極右に及ぼす政治的影響について、パンデミック時代に民主主義が衰退したと述べている。
ワシントン・ポストにオプエドを寄稿したアトランティック委員会の自由と繁栄センターの上級ディレクターであるジョセフ・ルモワンとプログラム・アシスタントのウィル・モーテンソンは「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が初めて世界を席巻した際、真っ先に懸念されたのは公衆衛生であった。国際的なサプライ・チェーンは混乱に陥り、政治指導者たちは公衆衛生を守るために社会行動を制限する必要性に直面した」と冒頭で述べている。そして、2025年9月9日の今日、「世界の民主主義は一種の長期的コロナに見舞われている。すでに低下傾向にあった政治的自由は、パンデミック後、25年ぶりの低水準にまで落ち込んだ。 新たなデータによると、2019年以降、世界の民主主義の後退率は年間で4倍に増加している。少なくとも112カ国が政治的自由をある程度失っており、そのうち3分の1以上はパンデミック以前には政治的自由の衰退を経験していなかった。このグループには、米国、カナダ、韓国、日本、オーストラリア、そして欧州連合(EU)加盟27カ国のうち20カ国が含まれている」と述べている。二人の著者は以下のように書いている。
この憂慮すべき傾向には多くの原因がある。まず第一に、パンデミックは権威主義体制の強化の口実となった。指導者たちは緊急命令を活用し、自らの監視を先送りし、これらの動きと権力の強化を目的とした積極的な情報工作を組み合わせた。例えば、チュニジア大統領はパンデミック対策への国民の不満を利用して議会を停止し、憲法を自らに有利なように書き換えた。ミャンマーの将軍たちは、新型コロナウイルス感染症による混乱の中で「不安定さ」を理由に2021年のクーデターを正当化した。そして、中国とロシアの指導者たちは偽情報を拡散し、国内では自らの有能さを誇示する一方で、国外では民主主義の失敗を煽り立てることで、検閲、監視、弾圧の拡大を正当化した。中央ヨーロッパ諸国、フィリピン、ボリビアなど、比較的制度が脆弱な民主主義国家では、新型コロナウイルス感染症による経済的ストレスと行政の脆弱性が、急速に政治の衰退へと繋がった。新興国は深刻な景気後退と緩やかな回復に見舞われ、市民社会の監視団体は、緊急対応を装った行政の権限の濫用に対抗しようと苦闘した。確立された民主主義国家はより強靭性を示したものの、それでも影響を避けることは不可能であった。EUで最も安定した民主主義国家でさえ、通常の立法府や司法府の監督をしばしば無視する緊急事態体制下で、移動、集会、表現といった基本的な自由を制限した。そして、こうした非常事態措置はパンデミックのピークをはるかに過ぎても継続され、統治の弱点を露呈させ、民主主義の後退傾向を加速させた。新型コロナウイルス感染症による高い死亡率と相まって、これらの制限措置は国民の不満を増幅させ、政府、そしてより広範な制度への信頼喪失を助長した。人々は政府の行動を、公衆衛生を守るための賢明な措置というよりも、過剰または政治的動機によるものと捉えることが多かった。
最近、パンデミックは終息したように思える時もあるが、コロナウイルスは、変異を繰り返し「政治的自由へのダメージは依然として続いている」という。「2021年はソ連崩壊後、最大の世界的な人口減少を記録し、学校閉鎖は歴史的な学習参加の機会喪失をもたらし、低・中所得国の子どもたちは、孤立とソーシャル・メディアへの依存度の増加によって学習機会が減少し、基本的な教科書を読めない10歳児の割合が約70%にまで上昇した。これらは、民主主義制度の将来的な活力を弱める可能性の一部」であるという。
今年、学者らは新型コロナウイルスの影響によって、ヨーロッパ諸国で政治的環境が変化し、極右派傾向になっていると指摘している。例えば、今年3月、ジョージ・ワシントン大学ではヨーロッパにおける非自由主義的傾向を専門とする三人の署名な学者がそれぞれのスピーチで、新型コロナウイルス感染症のパンデミックが欧州の民主主義諸国に政治的な衝撃を与えているか、新型コロナウイルス感染症が極右政党の選挙結果にどのような影響を与えたか、パンデミックが極右に及ぼす政治的影響などについて議論した。
2025年2月23日に行われたドイツの選挙で、「ドイツのための選択肢」つまり、極右で右翼ポピュリスト政党(AfD)は連邦議会では依然として小規模な政党であったものの、一部の東部州では勢力を拡大したという。フランスでは、近年世界に知られるようになった極右派のリーダーであるマリーヌ・ル・ペンは、2022年4月に行われたフランス大統領選で2期目のエマニュエル・マクロンに破れた。ル・ペンは、2025年3月に欧州議会の資金を横領した罪で有罪判決を受け、5年間の公職選挙活動禁止処分を受けているが、極右派は、以前として彼女を支持している。複数の政治アナリストは、彼女の政治的イデオロギーと政策を極右民族主義および大衆的であると見ている。イタリアでは、極右政党「イタリア兄弟」などは依然として勢力を保っている。ハンガリーでは権威主義者のヴィクトル・オルバン首相は2020年3月、パンデミックの危機を口実に、法令による無期限統治を行い、民主主義的な抑制と均衡を回避した。極右派は、新型コロナウイルス感染症対策による経済封鎖、マスク着用やワクチン接種の義務化、そしてソーシャル・メディア上の陰謀論を国民が反対していることから恩恵を受けているという。
要するに、アトランテック二人の筆者は、2020年春以降からのCOVID-19のパンデミックに世界の人々が直面した5年前から徐々に政治的環境は世界的に変化し、民主主義は近年急速に後退していると述べている。COVID-19パンデミックの発生以来、多くのヨーロッパ諸国、特に中央ヨーロッパ、東ヨーロッパ、南ヨーロッパの国々で政治的右傾化が見られ、政府が益々保守的になっていることが顕著な政治的変化である。しかし、約15年前から、世界中で民主主義の後退が続いていることをすでに観察しているグループも存在する。1941年に設立され、フリーダム・ハウスと呼ばれる世界中の民主主義、人権、自由の促進と擁護に尽力する独立した非営利・無党派の組織は「世界の自由度」を調査した報告書を毎年発行し、各国の政治的権利と市民的自由に関する評価を提供していることで知られている。この組織は、世界中の人権擁護活動家に対し、特定の理念や政策に対する公的な支持または推奨、活動、調査、支援を提供している。また、パンデミックは民主主義国と権威主義国の両方に、彼らの権利と権力を制限または強化することを正当化する機会を与えたため、民主主義国のみが弱体化した訳でもない。民主主義の弱体化は、パンデミックによって世界中の多くの政府が非常事態を宣言し、一時的かつ公衆衛生上必要なものとして、行政指導者の閉鎖措置の実施と資源管理の権限を強化したため、行政権が拡大したと思われる傾向は米国でも見られる。米国では、現在三権分立のバランスが崩れていると思われる瞬間を頻繁に見ているが、米国の民主主義がどれほど弱体化されているかについての見解は個人差があると思われる。