また、国家安全保障会議(NSC)において保健安全保障を専門に扱う部署も閉鎖され、国家情報長官室や国土安全保障省において生物学的脅威への対応を担っていた部門の一部も、組織全体の再編の一環として解体された。 トランプ前政権とバイデン政権の双方でバイオテクノロジーと国家安全保障の問題に取り組んだある科学者は、政権移行期に起きたことについて急速に進化する技術がもたらすリスクへの対応を調整する上で、連邦政府が主導的な役割を果たしていないと指摘し、「政権交代のたびに、それまで続いてきた多くの取り組みが中断されています。生物学的安全保障に関しては、極めて混乱を招くような形でそうした中断が起きました」と語りました。
生物学的安全保障に取り組んでいるAI業界
AI業界の指導者たちは、「自社のツールが生物学的攻撃に悪用されることを最大の懸念事項の一つに挙げてきた。スタンフォード大学医学部の教授であり、バイデン政権下でパンデミック対策に取り組んだデビッド・レルマン氏は 『非常にもどかしい思いをしています』と語った。 Anthropic社の「Mythos」やOpenAI社の「GPT 5.6」といった最新のAIモデルは、高度な生物学研究を行う能力を向上させ続けている。しかし、AIがコンピューター・コードを記述できるようになったことでハッキング能力が高まった事と同様に、その生物学分野での能力もまた、新たな生物兵器の製造や新たなパンデミックの誘発、さらには比較的専門知識の乏しい人物による生物学的攻撃の実行を助長しかねないという懸念」が生まれています。
今月、科学誌サイエンスは、AIを用いて新たなウイルスを設計することに成功した研究結果を掲載した。「設計されたウイルスはヒトではなく細菌に感染するものであるが、その成果は、AIによって何が可能になりつつあるかを示す明白な兆候」である。すでに昨夏、OpenAIの研究者たちは、生物学分野において高いレベルの能力に到達しつつあると判断していた。同社はこの「高い」レベルを『深刻な危害をもたらす既存のリスク要因を著しく増大させる能力』と定義している。同社はトランプ政権に対して状況を説明し、同年7月にはサンフランシスコの本社に50名以上の政府専門家を招き、自社のシステムを生物学的防衛にどう活用できるかについて協議するサミットを開催した。OpenAIの広報担当者は電子メールで、「AIの能力が拡大するにつれ、政権はこの重要な課題を益々重視するようになっており、我々はその連携を歓迎します」と述べました。
10月、マイクロソフトの研究者らはAIを使って、「既存の安全策では捕捉できなかった数千種類の毒素のデジタル版を設計し、その結果明らかになった検知システムの不備を修正した経緯を詳細に報告した。 ランド研究所の報告書は、生物学的脅威を伴う事案において、攻撃側は防御側よりも圧倒的に有利な立場にあると結論付けている。攻撃者は何度でも試行できるが、当局はあらゆる脅威に対処しなければならない。わずか一つの脅威であっても『壊滅的な結果を招きかねない』からである。 米国主要のAI企業は、リスクの高い生物学的研究に関する質問への回答を拒否し、より高性能なシステムは信頼できるパートナーにのみ提供するなど、モデルの利用制限を進めてきた。しかし、AIの安全策は完全なものではない」と言われています。「OpenAIは7月、自由に利用可能な中国の主要AIモデルをテストした結果、それらには同様の保護機能が組み込まれていないことが示唆されたと発表した。」 スタンフォード大学のレルマン教授は、「我々は今、共同で対処すべき極めて大きな課題に直面していると思います」と述べています。
トランプ政権は最近、「危険な機能獲得研究」と称されるものに関する新たな方針を発表しました。これは、病原体への防御策をより深く理解するために病原体を改変するという、長年行われてきた手法です。しかし、新型コロナウイルスのパンデミックを受けて、この研究をめぐる議論は激しさを増しています。一部の科学者は、この新方針は曖昧であり、正当な研究を妨げる恐れがあると指摘しています。民間部門では、Anthropic社が同社の最も強力なAIモデルに設けた防御策となる「生物学的安全策」が厳しすぎるとの研究者からの不満の声が上がっていました。同社は今月、これらの制限を緩和しました。「 AIの能力は危険な生物学的研究にも有益な研究にも転用できるため、多くの科学者は、自分たちの研究が過度に厳しく規制される」ことに抵抗があるようです。
最後に、トランプ大統領が2025年1月20日に二期目の政権に復帰した際、重要な生物学的安全保障の部門でも多数の人材を解雇しました。バイデン政権下でホワイトハウスのパンデミック対策室を率いた空軍の退役将軍ポール・フリードリヒス氏は、トランプ政権による予算や人員の削減によって、安全性と技術進歩のバランスを適切に保つため、万一の場合の準備が不十分になったことを指摘し、「疑いの余地はなく、極めて重要な機会を無駄にしてしまうリスクが生じています。我々は今、人類を苦しめてきた災厄の幾つかを克服できる、まさにその瀬戸際に立っているのです」と述べました。同氏のチームは「AI技術開発の障壁を取り除くことに集中していました。しかし、今春、新世代のAIモデルは、制御不能な状態でハッキングする能力があることが判明した後、方針が変わりました。政権当局者は、以前拒否していた「未公開ツールに対する政府の監視」措置を受け入れるようになりました。現在「当局者は潜在的な危険性に対して関心を強めているようです。例えば、ニューヨーク・タイムスの4日の報告によると、Meta、Anthropic、OpenAI、Googleは、米国における最先端AIモデルを対象とした政府主導の自主的な安全性テストについて、ホワイトハウス当局者と協議するための会合に招待されたのです。要するに、AIの急激な進化は生物学的安全保障にも関連しており、これには、危険な病原体や毒素の設計にAIが悪用されるリスクがあるため、トランプ政権は、単に、AI技術開発の障壁を取り除くことに集中するだけでなく、生物学的脅威に対して、監視、検知、及び防御システムの強化に焦点を向ける必要に直面していることを示唆しています。(完)