郵便投票を制限する大統領令:最高裁の一時判定は何を意味?

USPS本部 Photo credit : iStock

米国最高裁は8月24日、郵便投票を制限する大統領令を一時的に認めました。審理が行われておらず、署名もないこの決定は最終的な判定ではありません。完全に党派的に意見が分かれたこの決定は、郵便投票の問題を複雑にする可能性もありますが、早急に現状が大きく変わる性質のものではないことを示唆しています。

2026年 3月 31日に発行されたトランプ大統領の大統領令は、2020年の大統領選挙に敗北したことを受け、実際には起きていない大規模な不正選挙の主張が反映しているようです。その大統領令は、憲法に基づき、歴史的に米国市民のみが投票できるという点を文頭で強調しています。国土安全保障省は18歳以上の米国市民の市民名簿を作成するよう義務付けられ、米国郵政公社(USPS)はその名簿に記載されていない有権者の郵便投票用紙を郵送しないよう指示されています。USPSは大統領令のこの日付から「60日以内に規則制定の提案に着手するよう指示」されています。トランプ政権は「有権者名簿に非市民が含まれていないか監視する」ためにその名簿を利用するようです。不正を防ぐため各州は追跡可能な封筒を作成する必要があります。米国郵政公社は21日、95ページの規則を公表し、「その規則制定権限に基づき、連邦選挙における郵送投票または不在者投票の送付に関する郵便基準を改正します」と述べています。しかし、様々な角度から法的懸念も論じています。加えて、USPSが21日に公表した規定は、郵便投票用の封筒に関する規定を更新するものです。また、郵便投票用の封筒に、公式の「選挙郵便」のロゴと、それが投票用紙であることを示し、有権者登録証、不在者投票の申請書、投票所への案内通知などを表示することを義務付けています。このような規定が選挙前に適用された場合、各州は新しい封筒を作成し、USPSの承認を得た上で、数百万人の郵便投票者に配布しなければならないものです。州の選挙管理当局はすでに、彼らに過度な負担を強いることで、甚大な混乱が招く結果になると繰り返し警告しています。

郵便投票を制限する大統領令に対して、複数の提訴がなされています。その中には、民主党所属の州司法長官らがマサチューセッツ州の連邦地方裁判所に起こした訴訟も含まれます。同州の訴訟で、原告側は、憲法が選挙に関する権限を議会と州に与えており、大統領は権限を逸脱したと主張しました。 NYTの24日の報道によると、6月下旬、同裁判所のインディラ・タルワニ判事は、大統領令が憲法上の三権分立に違反していると判断し、その執行を一時的に差し止めました。同判事はどの有権者に郵便投票用紙を送付するかを決定する権限を、議会がUSPSに委任していないこと、さらに、行政機関が新たな規則を導入する際に法的に義務付けられている手続きを11月の選挙までにUSPSが踏むための十分な時間が確保されていないことを指摘しました。タルワニ判事は今月、関連する別の訴訟において、より広範な内容の決定を下し、2026年の中間選挙に向けたこの大統領令の執行を全面的に差し止めました。同判事は再度、憲法は選挙に関する権限を行政部門に付与していないと強調し、トランプ氏が広範な選挙不正を主張していることとは対照的に、政府は「違法または不正な不在者投票の証拠」を提示していないと指摘しました。連邦控訴裁判所はタルワニ判事による一時的な差し止め命令を維持しました。その直後、トランプ政権は緊急の申し立てにより米国最高裁に上訴しました。民主党州司法長官らは裁判文書上で、この大統領令について、「連邦政府が前例なく、法的に正当性のない有権者確認および投票用紙の選別」を拙速に要求し、「USPSに広範かつ新たな権限と責任を与えることになる」と異議を唱えました。彼らは、各州が不在者投票用紙の発送を開始する直前に、この大統領令の実施を認めれば、連邦政府が市民リストの作成において誤りを犯す可能性があり、正当な有権者が政府の判断に異議を唱えるための時間はなく、投票の権利を奪われる恐れがあり、有権者に混乱を招くことになると指摘しました。

24日の6対3による最高裁の完全な党派的判定は、このマサチューセッツ州で開始された訴訟に関連しており、選挙に関連する決定権は州の選挙当局にあるとする連邦裁判所と控訴裁判所の判定を覆したものです。しかし、この大統領令の施行を最終的に認めるという結論ではなく、「この訴訟は、下級裁判所に戻されることになり、大統領令の主要な部分は、別の訴訟における差し止め命令によって、現時点では停止されたまま」になっているようです。11月3日の選挙前に、別の訴訟も解決される必要があることから、大統領令に対する挑戦は終わっていないことを示唆しています。最高裁の24日の判定は「大統領令の是非そのものを判断したものではなく、より限定的な法的論点に関するもの」でした。つまり、「23州とコロンビア特別区が大統領令によって不利益を被ったと言えるか、そしてそれらの州による異議申し立てが法適要件を満たしているかという点」にあります。最高裁の保守派判事6人は「 上訴した時点で、各機関が大統領令実施のための規則をまだ確定させていなかったため、法的措置を講じるのは時期尚早だった」とのトランプ氏側の主張を支持しました。

UCLA法科大学院の教授であり、同校の「民主主義を守るプロジェクト」の責任者を務めるリチャード・ヘイゼン氏は、オンラインへの投稿で、今回の決定を「限定的かつ技術的なもの」と評し、この問題が近いうちに再び最高裁に持ち込まれる可能性があると指摘しました。同氏は、郵政公社が新たな規則を公表したという事実について裁判所が言及しなかったことは「奇妙だ」と述べています。ヘイゼン氏は、今回の決定によって最終判断が1週間以上先送りされると指摘し、「その頃には選挙がさらに目前に迫っており、州が新たに示される規則の一部を遵守することは不可能になるだろう」と警告しました。

この大統領令が11月の選挙前に施行された場合、議会の主導権を巡る選挙のプロセスに「新たな不確実性をもたらす」リスクがあります。選挙管理当局関係者は、選挙が迫っている時期に、「大規模な新手続きを導入するのは困難だと指摘した。各州は不在者投票用紙の発送開始という期限を控えており、大統領令に従うためには、封筒の差し替えやスタッフの研修、その他の変更が必要になる場合もある」と述べているようです。しかし、「計画の行方はまだ確定しておらず、更なる法的措置が講じられることはほぼ確実である」と言います。最高裁の判事らは、今回の命令が暫定的であり、計画が完了した時点で政権の命令が「必ずしも適法となる」かどうか最終的な判断ではない」と忠告しました。署名のない10ページの命令の中で、多数派は「その点については、時が経てば明らかになるだろう」と述べているようです。また、最高裁の保守多数派は、「広範な大統領権限の一部については好意的な姿勢を示したものの、すべてを受け入れているわけではない」ようです。多数派意見は、米国市民のリスト作成を求めたトランプ氏の大統領令の規定は「大統領から部下への内部的な指示」であり、「現時点では各州にいかなる義務も課すものではない」と言います。

一部の民主党リーダーらは最高裁の動きに反応しています。ニューヨーク州のレティシア・ジェイムス司法長官は、声明の中で、最高裁による判定は最終的な判断ではないとの見通しを示し、「投票権は神聖なものであり、いかなる政権であっても、有権者が投票することを困難にすることでその権利を危うくすることは許されるべきではありません」と述べました。ペンシルベニア州のジャシュ・シャピロ知事はソーシャル・メディアへの投稿で、「この闘いはまだ終わっていません。私たちは法的手段を検討しています。ドナルド・トランプは、ここペンシルベニア州でも、他のどの州でも、選挙を運営していません。トランプ政権とは法廷で争うことになります」と対抗する構えを示しました。同氏は、今回の最高裁の決定が「大統領令の実質的な内容に踏み込んだものではない」と指摘し、この判定が「郵便投票を制限しようとする同氏の違法な試みが実行に移されることを意味するわけではない」と主張しました。 また、別の訴訟は現在係争中であるため、大統領令に対する「闘いがまだ終わっていない」のです。米国自由人権協会(ACLU)を含む投票権擁護団体を代理する法務チームは、「最高裁によるこの暫定的な裁定には失望した」と言うものの、声明の中で、同大統領令を阻止するための取り組みを継続すると表明しています。このチームは、大統領令が「州や議会から選挙規則の管理権限を奪おうとする試み」であり、「明らかに違憲かつ違法」であるとし、「この大統領令に異議を唱える為、あらゆる法的手段を精力的に追求し続ける」と強い姿勢を示しています。

最後に、トランプ大統領がこの大統領令を発表する前後の時期に、米国司法省の長官であったパム・ボンディ氏は全州に対して、投票登録者の名簿を提供するよう求めました。これは市民権のない人物を、有権者登録名簿から削除するためにそのリストを利用させることを意図したものとされています。しかし、有権者登録名簿は、場合によっては死亡者及び移転者などが除去されていないか又は実際の有権者の指名が誤って除去されたと言う報告もあります。従って、正確に更新されていない可能性がある名簿を国土安全保障省が利用して作成するリスクも指摘されています。加えて、2020年以降、繰り返される調査報告は大袈裟な不正選挙の主張を裏付ける証拠を示していません。そして、この大統領令は、承認されたリストに名前が記載されていない個人については、郵便公社が代理で投票用紙を郵送しないよう指示しています。選挙管理当局の一部は、選挙前に大統領令が施行される場合、新たな封筒の作成を含む全ての準備はわずか約70日間が残された中で、変更作業は時間的余裕がないため、理不尽であると反発しています。総体的に、郵便投票に関する大統領令は11月の選挙前に施行される可能性は低いことを示唆しています。トランプ氏は複数の機関を利用して、郵便投票を制限する大統領の権限も試していますが、政府は計画をまだ最終決定していなかったため、23州の民主党法務チームの法的措置が時期尚早であったと最高裁が強調している点に注目する必要があります。

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