米国のアンカーベイビーをめぐる憲法改正論争は何を示唆?    

|

|

By Roll Call

 前大統領ドナルド.トランプは、いわゆるアメリカのアンカー.ベイビーと呼ばれる生誕市民権を終えることを目指していたが、4年間の就任中にそのゴールを達成することは不可能であった。アンカー.ベイビーとは、アメリカ合衆国で不法移民の間に生まれた個人を指すスラング用語である。言うまでもなく、アンカーとは日本語で船舶に繋ぐ錨のことである。船舶を固定するため海底に沈めて使用する重厚な素材の錨の爪は、水中下の地面に食い付くことによって、鎖でつないだ船舶の安定性を維持することができる。不法又は合法性に関係なく、アメリカで生まれた子供は誰でも自動的にアメリカ市民としての特権を得るため、特に、両親が不法移民であった場合、その子供はアンカーのような機能を持つことから、この比喩的表現が使用されるようになった。生誕市民権の拡大に対する恐れは、1月6日の国会議事堂での親トランプ暴徒による反乱の一部の隠れた動機であった可能性もある。

不法移民問題は、国境付近の安全性を懸念する声が高まった9.11以後、論議が過熱するようになっており、トランプ政権下でも、バイデン大統領が就任後も、10歳未満の子供たちが国境で拘束される風潮は変わっていない。2019年11月のブルッキングスの研究によると、不法移民の数は、推定数1,050万人から1,200万人、すなわち、わずか約3.2%から3.6%の範囲である。不法移民を歓迎しない人々の懸念は生誕市民権であり、今日も執拗に続いている最も論争的だった課題は、米国のアンカー.ベイビーをめぐる憲法改正である。2005年11月4日、当時CNNニュースの保守系のキャスターであったルゥー.ダーブズが「不法移民の間に生まれた子供も市民権とその特権を与えられているのは、おかしな話だと思いませんか?」とその全国放送で問いかけたこともアンカー.ベイビー論争の一因になった。保守派は、議会が国境の壁建設に資金を提供することもなく、生誕市民権を廃止することも成功していなかった2020年の上旬までトランプの行動を待ったが、簡単に実施出来る性質のものではない。

1868年7月に批准したアメリカ合衆国憲法修正第十四条は、両親の人種、国籍、移民の状態を問わず、アメリカで生まれた全ての子供にアメリカ国民としての市民権を与えた。従って、両親が不法移民であっても、その間に生まれた子供は自動的にアメリカ国民になる。この寛大な法の下に、アンカー.ベイビーは、平等の権利、保護、及び教育の機会を与えられ、家庭では両親の母国語で育ち、学校では英語を学びバイリンガルとして成長する。先進国アメリカで生きていく移民の子供たちにとって、貧しい祖国へ不法移民の両親と共に帰ることは非現実的となる。更に、アメリカ合衆国市民及び移民サービス(USCIS)は「アメリカ市民が両親の市民権を請願する場合、21歳に達していること」と明記しているように、21歳以上のアメリカ市民はスポンサーとして、彼等の両親に永住権を取得させる事も、帰化申請する事も可能になる。この様な法の便宜性から、アンカー.ベイビー人口増大と不法移民の市民権取得に反対する声は現在でも続いている。

アメリカ移民の歴史的特徴の一例として、メキシコからの合法及び不法移民の人口が最も多いヒスパニック系が少数派の中で最も多いことは概知の事実である。メキシコからの不法移民には、農作物の収穫時期に、ある農業地から別の農地に転住するパターンがある。現実的には、最初から意図的に市民権獲得を目指すより経済目的のため、ある一定の期間後は帰国するケースが圧倒的に多い。日本と異なり、アメリカの人口は増加の傾向をたどり、不法移民の数も上昇し続ける傾向にある。しかし、近年の不況も加え、アリゾナ州での不法移民取締り強化の影響により、不法移民の数も若干減少しているが、10年以上前からの不法移民に反対する議員や国民から、150年以上経過した憲法修正第十四条はもはや時代にそぐわないことが指摘されている。また、この憲法が市民権を得るための抜け穴として乱用されている可能性を懸念する彼等は、この法の改正を強く望んでいる。不法移民とアンカー.ベイビーの問題を解決する方法として、移民法の取締りを強化することはもちろん、合法的プロセスを踏まえて正当な方法で市民権を取得する人たちの立場を尊重することなどが法改正支持の共通した理由である。

改正案には二つある。まず、提案Aは不法移民を連邦レベルで犯罪化することである。現行法では、不法入国は犯罪ではなく民事法違反であり、罰金又は他の罰が課せられるだけで刑務所に拘留されることはない。不法移民の場合、罰金以外の他の罰は、強制送還である。現行法では、不法滞在が摘発された場合、約30州に存在する連邦政府のいずれかの移民裁判所がその不法移民者の処置を決定する。しかし提案Aにより、不法移民が犯罪化されると、連邦地区裁判所を通して最終的に州の刑務所に拘留されることになる。移民法に無関係の現行法の州犯罪には軽罪と重罪がある。可能な罰則は、軽罪の場合、群の拘置所に最高1年まで拘留される。重罪の場合、州の刑務所で1年以上から終身刑までが適用され、死刑が宣告される場合もある。この提案Aで一般的に解釈されている要点は(1)不法入国及び不法滞在している成人は犯罪者であり、その犯罪の意味を理解していることが推定される。(2)6歳以上、18歳までの子供が不法入国し、不法滞在した場合、州はその子供が違反する意志が最初からあったかどうかを証明しなくてはならない。(3)6歳以下の子供が不法入国及び不法滞在した場合、罰則又は有罪の対象にはならない。提案Aでは、アメリカ国内で不法移民の両親の間に生まれた子供の市民権は否定していないが、アメリカ合衆国への不法入国そのものを事前に阻止するねらいがある。

提案Bは、生まれた子の両親のいずれかがアメリカ市民であるか、又は合法的移民である場合に限り、その子にアメリカ市民としての特権を与えることである。この提案の支持者は、永住権は取得しているが市民権は所有していない移民と、合法的に入国して一時的に滞在している外国人とを区別する必要性を主張する。この場合の区別に関しては二つの案がある。ひとつは、学生ビザや労働ビザなどで合法的に入国したとしても、一時的な滞在である場合、両親のいずれかが永住権を獲得していない限り、生まれた子供に対するアメリカ市民の権利は否定されるが、二点目は両親が合法滞在である限り、子供の市民権は認めることである。

更に、提案Bを採用して憲法改正を行った場合、問題をかなり複雑にする可能性が大きい。例えば、両親がいずれもメキシコからの不法移民であっても、アメリカで生まれた子供は現行法ではアメリカ市民になるが、提案Bではメキシコ政府に一切の権限を委ねることになり、メキシコ政府がその子をメキシコ市民と認めない限り、無国籍になる可能性もある。仮に、父親がメキシコからの不法移民であり、母親がグアタマラからの不法移民である場合、アメリカで生まれた子供の国籍はどうなるのか疑問である。この案の最悪なケースは、不法移民の未婚女性が子供を生んだ直後に死亡し、その女性の国籍も父親が誰であるかも不明な場合である。アメリカで生まれ、孤児になったその子の国籍はどうなるのか具体案がない。また、この改正案が成立した場合、成立1分前に誕生した双子の一人はアメリカ市民、1分後に誕生した別の双子はアメリカ市民ではなくなるなど、不合理な状況も考えられる。このように、個々の様々なケースについても具体的な規定が必要になり、その論議は延々に続くことになる。

アメリカには多様な移民パターンがあり、個々の具体的な問題を考慮した場合、憲法修正第十四条の改正は更に物事を複雑及び困難にするだけである。この法の改正を支持しない人たちは、上記A及びB の改正案は実質的に難しい事を主張している。その主な理由の一つに、改正案には上院及び下院両議員の3分の2の賛成票が必要であり、4分の3の州立法府が憲法改正を批准する必要がある。不法移民を犯罪化した場合、犯罪者の収容場所の問題、それに伴う税金増大の可能性など、更に難しい問題が続出するのは明らかである。アメリカの先人は、このような複雑で難しい問題を避けるため、出生地に基く最も単純で明快な市民権の解釈を後世に残したと思われる。前大統領トランプは彼の就任中に公約を果たす為、可能な限り、不法移民を排除する政策に取り組み、生誕市民権には成功しなかったものの、子供の頃に不法移民の成人に米国へ連れてこられた約80から70万人に合法的滞在資格と労働許可を与えた元大統領バラク.オバマの大統領令であるダカ法(DACA)の停止に一時的に成功した。現在のバイデン政権下では、ドリーマーと呼ばれるこのプログラムの受益者は完全に保護されている。

ドリーマーは米国で結婚し、更にアンカー.ベイビーの人口層が増える可能性は大いにある為、非ヒスパニック系白人の人口は益々圧倒される事になる。シカゴ大学の政治学の教授ロバート.ペイプは6日ワシントン.ポストのオプエドで、1月6日の国会議事堂での親トランプ派による反乱の目的は、トランプの主張に従い、選挙結果を転覆する事であったが、隠れた理由は、非ヒスパニック系白人の人口が減少することへの恐れであると述べた。つまり、それは移民を含む人種問題の恐れが根底にあると示唆した。告訴された親トランプ暴徒の一部は、白人至上主義者であるか又はその傾向があり、建国の父らが決めた非常に寛大な生誕市民権が存続することは、非ヒスパニック系白人の減少にも繋がる事を本能的に理解していたと思われる。彼らは、選挙が「盗まれた」とのトランプの主張を絶対的に信じ、彼らの大統領がホワイトハウスに留まり、白人人口の減少を防ぐ為、前代未聞の無慈悲な移民政策を推進したトランプ政権による権力の維持を望んでいた事をペイプ教授の分析は示唆した。

カテゴリー:

アーカイブ

アメリカ・ウオッチ- Yuko's Blogをもっと見る

今すぐ購読し、続きを読んで、すべてのアーカイブにアクセスしましょう。

続きを読む