
Photo credit : BBC
米国最高裁は3月31日、コロラド州で2019年に可決された未成年者に対する転向療法規制法が言論の自由に違反する可能性があると判定した。一人のリベラル判事を除いて、他全ての最高裁判事らは、同州の法律に対して異議申し立てによる訴訟を提起したコロラド・スプリングスを拠点とする公認セラピストであるケイリー・チャイルズの主張を支持した。驚くことに約30州は、転向療法を禁止または規制しており、コロラド州はその中の一つである。しかし、最高裁は、彼らの判定を最終とせず、下級裁判所に差し戻したのである。
米国には、自分自身の性的確定に矛盾する性的指向や感情の違いで苦しむ若者が多いとされている。そして、性転換を試みる人々もいる。こうした若者に対応するカウンセリング・ビジネスも増えている。その代表的なものが英語でConversion therapies(転向療法)と呼ばれるものである。米国児童青年精神医学会(AACAP)の解説によると、修復療法とも呼ばれる「転向療法は、同性への性的関心や個人の性別表現を変化させることを目的とした介入であり、異性愛を望ましい結果として促進することを特定の目的としている。自身の性自認が身体的性別と一致しない若者に対し、その中核となるGender Identity(性自認)そのものを変えようとする試みも報告されており、近年ではこれらも「転向療法」の範疇に含まれるものとみなされている。これらの介入は、同性愛や性別の多様性を持つ自認が病的なものであるという、誤った前提に基づいたものである。しかし、実際には病的なものではない。病理が存在しないということは、転向療法やそれに類する如何なる介入も不必要であることを意味する。さらに、転向療法は、まさにその治療対象としている若者たちにおいて、精神健康上の問題を誘発したり、既存の症状を悪化させたりするリスクを高めるという証拠もある」と述べている。
AACAPは「特定の性的指向、性自認、および/または性表現を病理的なものとする前提に立って行われるいかなる『治療的介入』についても、その実施を支持する根拠は存在しないと判断しています。さらにAACAPは、科学的根拠に基づき、こうした転向療法または、特定の性的指向やジェンダーを望ましい結果として促進することを意図して強要されるその他の介入には、科学的な信頼性および臨床的な有用性が欠如していると断言します。加えて、こうした介入が有害であるとする証拠も存在します。したがって、転向療法は、児童および青年に対する如何なるメンタルヘルス(精神健康)治療の一部としても組み込まれるべきではありません。ただし、この方針は、臨床家に対し、あらかじめ結果を決めつけることなく、発達段階に即した形で、性的指向、性自認、および/または性表現についてオープンに探求できるよう支援することを求める『標準的ケア』の原則を、いささかも損なうものではありません」と述べている。
コロラド州政府によると、同州は2019年5月31日に、未成年者に対する転向療法を禁止する法律を制定した。この法律は、「精神医学を専門とする免許取得済みの医師、または免許、認定、登録を受けた精神保健医療従事者が、18歳未満の患者に対し転向療法を行うことを禁止している。こうした行為に従事した免許保持者は、所管の免許交付機関による懲戒処分の対象となる。転向療法は、個人の性的指向を変更しようとする試みを意味し、これには、行動や性別表現を変更しようとする試み、あるいは同性の他者に対する性的または恋愛的な感情を排除または低減しようとする試みが含まれる。同州は、そのような行動を目的とした治療を提供することを禁じている。」また、カウンセリングが性的指向や性自認の変更を目的としていない場合、「個人の対処能力、社会的支援、および自己の性自認の探求と形成を促進するための受容、支援、理解の提供」は転向療法ではないことを明白にしている。
公認セラピストであるケイリー・チャイルズは、聖書の教えに沿った方法で、性的指向や性別違和に悩む宗教的な10代の人々にカウンセリングを行いたいと主張し、コロラド州の法律が彼女の仕事を阻害しているとして、コロラド州を告訴した。ワシントン・ポストの31日の報道によると、最高裁は火曜日、コロラド州の同性愛者および性転換の未成年者に対する「転向療法」を禁止する法律が言論の自由を侵害する可能性が高いとの判断を下した。米国最高裁の多数派判事らは、州の禁止措置が憲法修正第一条の権利を侵害していると主張した福音派のセラピストであるチャイルズの主張を8対1で認めた。この判決は、若者の性的指向や性自認を変えようとする試みを禁止している約30州の同様の法律にも影響を及ぼす可能性がある。多くの州は、転向療法が有害であるという証拠が増えるにつれて、過去10年間で転向療法を禁止または制限する法律を制定してきた。
多数派意見を代表したニール・ゴーサッチ判事は、コロラド州の法律は「言論を検閲している。コロラド州は、その政策を公衆衛生と安全に不可欠だと考えているかもしれない。確かに、歴史上、検閲的な政府は同じことを信じてきた。しかし、憲法修正第一条は、この国において思想や言論の正統性を強制しようとするいかなる試みに対しても盾となっている」との多数派意見を書いた。一方、唯一反対意見を述べたケタンジ・ブラウン・ジャクソン判事は、多数派意見に強く反対していることを示す為、その反対意見書を法廷で音読した。彼女は、転向療法は有害な医療行為であることが研究で示されているにも関わらず、最高裁判事の多数派がそれを憲法修正第一条で保護したことは「危険なパンドラの箱を開ける」ことになるとの懸念を表明し、「これまで、免許を持つ医療従事者は患者を治療する際に一定の基準を遵守しなければなりませんでした。彼らは好き勝手に行動したり発言したりすることはできませんでした。こうした州による規制のおかげで、アメリカ国民は長年にわたり質の高い医療という輝かしい伝統を享受することができました。今日、最高裁はその伝統に背を向けようとしています」と厳しく反論したという。
最後に、転向療法は、個人の性的指向や性自認を変えようとする疑似科学的な行為であるとされている。米国では28州とワシントンDCに加えて、米国領土であるプエルトリコ、更に100以上の自治体が、転向療法とその公的資金提供を禁止している。転向療法が実施された場合、詐欺行為に該当する可能性があり、未成年者に対して実施された場合は児童虐待の一形態とみなされる。更に2023年12月までに、28カ国が転向療法を禁止している。カナダ、フランス、ドイツ、スペイン、ノルウェー、ポルトガル、メキシコ、ニュージーランド、アイスランド、ベルギー、キプロス、エクアドル、マルタの13カ国は、全ての人物による転向療法の行為を禁止している。ここ数年、世界的に転向療法は有害である証拠があるとされる中で、この風潮に反して、米国最高裁は、転向療法を規制するコロラド州の法律は言論の自由に違反している可能性があると判定した。最高裁の保守派判事らは、多くのケースにおいて、保守系宗教団体や宗教に関連している個人の告訴に同情を示す傾向が強い。しかし、注目すべきことは、最高裁8人の判事らがコロラド州の法律を全面的に打破せず、当該禁止措置を再検討させるよう命じ、下級裁判所へ差し戻したことである。